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tami tamiのステキ!ホンキ!入門期

tami tamiのステキ!ホンキ!入門期

 この連載では、今年、私が小学校や幼児教育施設とのかかわりの中で学んできたことをエッセイ風に綴りながら、お読みいただく先生方と一緒に勉強していきたいと思っています。

目次

第1回 スタートカリキュラム始動!

第2回 ある校長先生からの相談

第3回 幼児教育施設の現状

第4回 入学3日目の子どもたち

第5回 入学から2ヶ月。すっかり小学生になった子どもたち

第1回 第2回 第3回 第4回 第5回

第1回 スタートカリキュラム始動!

今年は特に忙しい!

 大学教員の仕事は、一般的には「研究」、「教育」、「学務(組織運営)」といわれていますが、「研究」や「教育」から得た知見を社会に還元することも重要な仕事です。今年になってから、スタートカリキュラムに関する相談を教育委員会や小学校から受けることが多くなりました。2017年に刊行された学習指導要領解説(以下、「解説」)には、「スタートカリキュラムの編成」が言及され、いよいよ2020年度から、本格的にスタートカリキュラムがすべての小学校で開始されることが背景にあるようであるようです。

進化するスタートカリキュラム

 スタートカリキュラムは、小一プロブレムなどの問題を解決し、学校生活への適応を進めることが、2008年刊行の「解説」では期待されていました。一方、来年度からのスタートカリキュラムは、生活科固有の課題としてではなく、カリキュラム・マネジメントの視点の検討や学校全体での取り組みなどが求められています。つまり、本質的な子どもの発達を軸とした教育内容の接続が求められるステージに達したと考えてよいでしょう。

スタートカリキュラムの3ステージ

小学校の先生の本音

 しかし、ある市の生活科主任の夏季研修会で、5月の研修会のまとめを拝見したところ、スタートカリキュラムの共通認識としてキーワードが「揃える!!」となっておりました。「幼保の違い、生活経験の差、学力差などを揃えていきたい」とのことでした。2015年に刊行された『スタートカリキュラムスタートブック』は、「ゼロからのスタートじゃない!子供は幼児期にたっぷりと学んできています」と書かれていますが、現場で子どもたちと直に接している先生方の本音を垣間見ることができました。

子どもの経験はゼロではない。でも……

 誕生から6年間、子どもたちは多様な環境のもと、成長・発達を遂げてきます。したがって、一人一人はそれぞれの経験を有しており、ゼロからでのスタートではありません。しかし、就学前教育は初めての集団生活となりますから、そこでの生活習慣、学びの内容や方法は、子どもたちに大きな影響を与えます。また、就学前教育は、幼稚園と保育園のだけではなく、それぞれの公立と私立があり、2015年4月の「子ども・子育て支援新制度」施行後は、幼稚園や保育園の認定こども園への移行、さらに企業主導型保育所も参入など一層複雑なものとなってきました。

スタートカリキュラムをどう活用するかが肝

小学校が受け入れている幼稚園等数

 2017年度の静岡県幼児教育センターの調査によると、小学校1校が受け入れている幼稚園等の数は、1から50以上までと差がありました。少数の幼児教育施設からの受け入れであれば、園との連携を密にし、子どもの生活や遊びの経験をなだらかに引き継ぐことが可能です。一方、多くの園から受け入れる学校や規模の大きな学校は、一工夫必要です。スタートカリキュラムを紙面上で編成することは難しくないと思いますが、それをどのように活用するのかそれが、問われているのではないでしょうか。

 次回は、「ある校長先生からの相談」についてです。

第2回 ある校長先生からの相談

SC(スタートカリキュラム)チーム会議スタート!

 1月、ある小学校の校長先生から全校体制でスタートカリキュラム(以下、SC)に取り組みたいとの相談がありました。学校の規模は、1学年4クラス程度、25~30の園から子どもたちが入学してくるSCの必要性の高い学校でした。

 校長先生からは、1年生の実態と課題、幼小の交流や連携の実態、そしてSCについては、

①大人の都合ではなく、子どもの思いや願い、そして先行経験を大切にしたい
②午前中5時間という特色ある時間割を生かしたカリキュラムにしていきたい
③生活科の見直しをしたい

と基本的な実態と方針をお聞きしました。

 この日は、3月上旬の第1回SCチーム会議に向け、「忙しい中でも取り組んでよかったと思えるSCをめざす」ことを確認し、キックオフミーティングは終了しました。

 3月、校長ほか、教頭、主幹教諭、1年部の先生方の出席のもと、第1回SCチーム会議が開かれました。また、校長先生が方針を述べられた後、主幹教諭が進行役となり、SCの構想の確認(目的、構想、作成の視点)がなされました(具体的なSCについては第4回で紹介します)。1年部の先生からは、身の回りの整理、文書の配布と回収など基本的な生活に関する課題が語られました。

 幼児教育は、遊びを通して総合的に指導をしています。つまり、子どもの好奇心や遊び心を保育者が読み取り、子どもの思いや願いに即した内容や指導方法を選択し、子どもと一緒に保育環境を創造します。

先生の遊び心を掘り起こす

 活動に遊び的な要素を取り入れることにつて小学校の先生がどのようにイメージされているのかを知りたくなり、「一つ一つのことをごっこ遊びに例えてみませんか」と先生方に質問してみました。すると、教頭先生が「配布物は、『郵便ごっこ』ってところですか」とちょっと恥ずかしそうに答えてくださいました。

 幼児教育の現場では、保育者が「郵便屋さん、お願いします」といって、郵便ごっこの体裁を取りながら、配布物を配布する園もあります。幼稚園での勤務経験のある小学校の先生は、トイレの使い方は「トイレ探検」、発育測定は「保健室探検」という感じで、「探検」という遊び的な要素をふんだんに取り入れながら、小学校の生活や学習に子ども達を誘っている事例を伝えました。先生方も徐々にイメージが膨らんできたようでした。

 先生方の話から、先生方が考えていらっしゃる幼児期の遊びは、子どもの自発的な活動としての遊びではなく、帰りの集まりなどで行われる手遊びや読み聞かせといったステレオタイプの活動をイメージしていることがわかりました。集団的な遊びだったにしても、子ども達は、鬼ごっこやジャンケン列車、フルーツバスケットなどは自己を発散でき、友だちと自然に関わることができる動的な遊びが好きです。子どもに合わせた静と動のバランスの取れた活動をSCにいかに取り入れることができるのかが重要です。しかし、先生方は「体験したことがない子がいたら困るのではないか」と慎重になられておりました。遊んだことがなかったにしても、子どもはおもしろそうなことは、他の子どもが遊んでいる様子をみて、どんどん学んでいきます。もっと子どもの力を信頼してもよいと感じました。

幼児教育の現場へ

 小学校と園では、特別な支援の必要な子どもや家庭についての情報共有については行われていますが、園の具体的な生活(1日の生活の流れ、個人の持ち物の整理、配布物の扱いなど)や集団遊びについての把握が不十分だということが会議でわかりました。そこで、3月中に複数の園の実態調査を実施し、4月に初旬に報告するということで、第1回SCチーム会議は終了しました。

 SCの開始や学校種間の接続の重要性が強調され、園を参観する機会が多くなってきているのではないでしょうか。小学校の先生がご覧になれば、それぞれの興味や関心に基づき、環境に働きかけ遊んでいる姿は、「かわいい」と思われるでしょう。なぜ、かわいいと感じたのか?一歩深めた省察をする時間がもてるとよいと思います。また、ロッカーや掲示物などから子どもの一日の生活の流れや様子も感じ取ることができます。参観の機会を有効に使うことで、子どもの発達や園での遊びや生活を深く知ることができるでしょう。

 次回は、「幼児教育施設の現状」についてです。

第3回 幼児教育施設の現状

幼児教育施設は、今

 幼児教育施設というと、すぐに思い出すのは、幼稚園と保育園。また、認定こども園も身近になってきたのではないでしょうか。
 少し整理をしてみましょう。

 幼稚園は、学校教育法に第1条に定められた学校です。
 保育所は、児童福祉法第39条第1項に定められた児童福祉施設です。
 認定こども園は、教育・保育を一体的に行う、幼稚園と保育所の両方の良さを併せ持っている施設です。法的には、「就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律」に依拠しています。「幼保連携型」、「幼稚園型」、「保育所型」、「地方裁量型」と多様なタイプがあります。内閣府のホームページなどで、もう少し詳しい情報を得ることができます。
 それぞれ法的根拠はちがいますが、保育内容(ねらいと内容)や環境を通して行う教育であるという点については、整合性が図られています。

幼児教育の現場へ(調査の概要)

 私は、キックオフミーティングを受け、その小学校に多くの卒園児を送り出している4つの園(公立幼稚園、私立幼稚園、公立保育園、私立保育園)を訪問し、以下のことを調査しました。

A) 5歳児の実態
B) 生活と遊び
 ①3学期の生活リズム、②給食、③配布物や提出物の扱い、④集団遊び
C) 物的環境
 ①個人のロッカー、②トイレの状況、③昇降口の状況
D) 小学校へ伝えたいこと

 集団遊びは、戸外では多様な鬼ごっこ、ドッジボールなど、室内ではフルーツバスケット、ハンカチ落とし、じゃんけん列車、コマ回しなど、4園ともほぼ同様な活動を行なっていましたが、一日の生活については、個々の園や家庭の状況に応じて違っておりました。特に先生方に知っておいて欲しいことを3点、報告したいと思います。

1)登降園の時間や通園方法は保護者の都合が優先されることが多い

 調査した公立幼稚園は、8時40分〜9時に登園し、14時30分(水曜日のみ14時)に降園というリズムで過ごしていきます。一方、保育所、私立幼稚園は、早い子どもは7時30分から登園してきます。一方で、保護者の都合で登園が遅い子どももいるようです。また、私立幼稚園はバス、保育所は自家用車を利用する子も少なくありませんでした。
 このような状況を考えると、入学当初、学校への徒歩での登校についてハードルの高い子もいるかもしれません。就学時健康診断時の保護者説明会等で、休日の朝、自宅から小学校までの道のりを一緒に歩いてみることを進めてはいかがでしょうか。

2)配布物や提出物の扱いは園によって違った

 配布については、公立幼稚園、私立幼稚園は帰りの会で、公立保育所はおやつ後に、一人ずつ、またはグループに枚数配布し、子どもが半分に折ってお便り袋に入れるとのことでした。一方、私立保育園は、個人のウォールポケットに入れておき、子どもが自分で取ってカバンに入れる場合もあれば、親がそのまま持ち帰る場合もあるそうです。また、提出物については、幼稚園は回収箱に自分で入れますが、保育園は登園時間が多様なため、お便りも薬と一緒で保護者が直接保育士(担任でない場合もある)に渡すこととなっておりました。

tami tamiのステキ!ホンキ!入門期_写真

 いずれにしても、スクール形式の配置の中で、配布物を前から順番に1枚ずつ取って後ろにまわすという方法はとっておりませんでした。小学校から幼児教育施設に、遊びの中で、順送球(ボール送り)を取り入れるように進めてみてもよいかもしれません。事前に練習させるのではなく、遊びの中で自然に動きを身につけていくことができるのではないでしょうか。

3)ハサミを自由に使える園、使えない園がある―子どもの実態を把握しながらの個別指導

 幼稚園で使用している個人の道具箱には、ハサミ、のり、カスタネット、マーカー、クレヨン、粘土などが入っていました。一方、保育園は個人の道具箱は使用していませんでした。公立保育園では、製作コーナーにハサミやのりなど共用の道具がおかれていましたが、私立保育園では、ハサミは保育者のロッカーにしまわれており、子どもが自由に使用できるようにはなっておりませんでした。遊びの中で、子どもの必要感に基づきハサミを自由に使えるのと使えないのとでは、経験の差が出るのではないかと感じました。
 各園の方針や事情があり、そのような方法をとっている場合もあります。入学後、それぞれの子どもの実態を把握し、必要に応じて個別指導を行うことが肝要です。

幼児教育施設についての理解を深める

tami tamiのステキ!ホンキ!入門期_写真

 幼児教育施設を訪問する際に、昇降口やトイレなどの環境をご自身の目で確認されるとよいと思います。例えば、上靴を使用していない園があったとします。疑問に感じたら、理由を直接、園の先生に尋ねてみるとよいと思います。その理由だけでなく、背景にある園の方針などもみえてくると思います。
 小学校では、トイレの洋式化が進んでいますが、幼児教育施設では、公園などいろいろな場面のトイレの使用について考えられており、洋式と和式の両方のトイレを準備しておいます。いろいろなトイレに慣れておくことも、グローバル化が進むことを考えると大切なことかもしれませんね。もう一つ、小学校以上と大きく違う点は、男女別でないということです。調査対象以外の幼稚園で男女別になっているところもありますので、すべてではないということを加筆しておきます。

 次回は、「入学3日目の子どもたち」についてです。

第4回 入学3日目の子どもたち

先生がモデルとなる

 4月11日(木)7時半過ぎ、小学校へ到着。校長先生に挨拶をした後、1年生の教室に向かいました。この日から給食が始まります。
 7時50分、放送で校歌が流れ、経験年数が長いと思われるA学級の先生が、「みんなの幼稚園には、園歌があった? 幼稚園だから園歌って言うんだよ。小学校は学校だから、校歌っていうの。もう一度流れるから、みんなで、覚えようね。」と伝えた後、先生自身がきれいな声で楽しそうに歌い出しました。もちろん歌い出す子はいませんでしたが、先生の姿はしっかりと見ていました。

「にんぽう はやきがえの じゅつ」

 その後、先生の指示に従い、子どもたちは廊下の壁のフックにかかっている体操着の袋と帽子を取りに行き、制服から体操着に着替えはじめました。先生は、「失敗してもいいんだよ。」ということを何度も伝えながら、「どっちが前かわかる?」、「名前が書いてある方が、後ろだよ。間違っても大丈夫だよ。」と丁寧に声をかけていました。衣服の着脱の自立はできていたにしても、初めて着る体操着、机と机の間の狭い空間での着替え、子どもたちにとっては、初めての体験です。「みんな、上手」、「早いね」、「いい感じ」など個々の子どもに伝えていました。
 着替えと並行して「着替えた人は、トイレに行ってきていいよ。そろそろ、行きたい時間じゃない?」と個々のペースにまかせていました。トイレの使い方等に関してとまどっている子はいませんでしたが、ハンカチを制服に入れたままの子が多く、手を拭くことができずにいる子がいたのが印象的でした。幼児教育施設では、個々のタオル掛けがあり、そこで手を拭くことが多いからです。また、保育園では、感染症予防の観点から、ペーパータオルを使用しているところもあります。しかし、すぐに一人が「あ、ズボンの中だ! 着替える時にとっていないとダメだ。」と声をあげました。先取りをするのではなく、小さな失敗をしながら、自分で気づいていく子どもたちの姿を垣間見ました。「失敗してもいいんだよ。」という先生の言葉がつながった場面でした。

「ならびっこ」

 運動場での「ゆうぐたんけん」の前に、子どもたちは教室内で、スムーズに整列。先生は子どもの頭を触りながら、出席番号を確認しました。運動場に出てから、再び整列。その後、ジャングルジムや総合遊具で子どもたちは自由に遊んでいました。一方、C学級の子どもは、「さんぽ」のCDをかけ、歌う→歌いながら歩く→歌いながら列車になって歩くといった動的な活動をしていました。その後、A学級、B学級との入れ替えで運動場に遊びに行くため、先生が教室内で整列させようとしますが、A学級のようにスムーズにはいきませんでした。しかし、子どもたちは、ごちゃごちゃしながらも、子ども同士で話をしたり、笑ったりしながらゆっくりと整列していました。スムーズに並べないにしても子どもたちは、その隙間時間を子どもなりに有効に使っているように感じました。クラスの先生にはその姿は見えないかもしれませんが、自分たちでその場に適した時間の使い方ができるようになって入学してきているということです。幼児教育の成果の一つといってよいかもしれません。

スタートカリキュラムの構想(案)より

この小学校のスタートカリキュラムの目標と構想について紹介します。

<スタートカリキュラムの目標>
・学校の施設の様子や位置と生活のサイクル、先生など学校生活を支えている人々や友達の様子がわかり、自分のことは自分でやろうとしながら、安心して学校生活をスタートさせる。
・ものや人に主体的に関わって「できた」「わかった」を積み重ねることになり、自分に自信を持ち、楽しく学習したり生活したりする。

<スタートカリキュラムの構想>
・接続期の子どもの生活リズムに配慮し、3つの活動を設定する。
【○○タイム】8:00~9:00
・○○小学校の生活がわかり、一人一人が安心して、自分の力で生活したり、新しい友だちや先生などとなかよくなったりすることをねらいとした活動。
・朝の会から1時間目に設定し、柔軟に時間や活動をできるようにする。子どもに活動する機会を与えるようにする。教科の授業時間には含めない。

【なかよしタイム】生活科と関連教科
・スタートカリキュラムの中心となる生活科の内容を行う。他教科との関連も測りながら子どもの思いを大切にして取り組みたい。
・授業時数は、生活科や教科として配当する。

【まなびタイム】各教科
・教科の内容を中心にした学習。「自分でできた」「わかった」を積み重ねたい。
・授業時数は、各教科として配当する。

 ○○タイムの時間は徐々に短くなっていきます。先生方の思いは以下の通りです。
 楽しく自分からやりたくなる活動中心の時間にしたい。
 ・活動の中身は変わっても、時間のパターンはなるべく同じに
 ・活動は、幼児教育との連携で検討
 ・活動のネーミングを工夫(トイレ探検、郵便タイムなど)

11日(木)にいたるまでの2日間

 先生方の活動内容の記録を抜粋いたします。

8日(月)入学式
9日(火)
○げんきいっぱいへんじ
 健康観察では「元気いっぱい返事してみよう!」と声をかけ気持ちよく1日のスタートが切れるように心がけた。
○あさのおしごとなにかな
 朝来たらやることを「お仕事」とし、支度をすることが楽しくなるように声をかけた。
○ゆうびんたいむ
 家に渡すお手紙のポケットにシールを切手に見立て貼り付け、お家の人へのお手紙を届けることを意識させた。
 *朝の時間に外に出て、並び順を確認しながら遊具で遊んだ。
10日(水)
○げんきいっぱいへんじ
○おはなしたまてばこ
 子どもたちは床に座り、手遊びの後に、幼稚園などで読むような絵本を選び読み聞かせを行った。

 先生方は、初日は朝からしっかりと椅子に座っている子が多く、「頑張りたい」という気持ちが伝わってきたと語っていました。また、健康観察については、2日目には「昨日もやったよ!」と自信を持って取り組める子が増えてきたそうです。
 さらに、時間の途中に「まねっこあそび」や「じゃんけんキング」などの遊びをはさみながら、活動にメリハリをつけることで子どもたちは集中して活動に取り組んでいたともおっしゃっておりました。年度当初は、自分の力で自分のことができることをめざし、動と静のメリハリをつけることが重要だということです。

校長先生は子どものつぶやきを見逃していない

 11日の遊具遊び終了後、男児の「保育園では、時間は決められていたけど、いろいろな遊びができた。」というつぶやきを、校長先生はしっかりキャッチされておりました。子ども一人一人をみる、子どもに寄り添うとする校長先生の思いを感じた一瞬でした。
 この子たちどのように学校生活を創造していくのか、期待を胸に学校を後にしました。

 次回は、「入学から2ヶ月。すっかり小学生になった子どもたち」です。

第5回 入学から2ヶ月。すっかり小学生になった子どもたち

朝の風景

 7時45分すぎ、C学級に向かいました。2ヶ月前、先生が子どもたちを整列させるのに苦労していたクラスです。(子どもは、その時間を楽しんでいるようでしたが・・・。)
 他のクラスにはすでに担任が入っていました。このクラスには、先生はいません。レクチャーテーブルに置かれている籠の中に、宿題のプリントが重ねられていました。登校してきた子から提出したのでしょう。2人で絵本を見ながら絵を描く子たち、数人であみだくじをする子たち、アサガオに水をやっている2人を教室内から眺め、声をかける子たちなどそれぞれの時間を過ごしていました。

 7時55分前に、先生が部屋にきました。すぐに、上靴を投げて屋外の倉庫の屋根に乗せてしまった子が先生に状況を訴えます。先生は、少し待つように伝えていました。今週は「読書週間」ということを子どもたちは知っているようで、7時55分、チャイムがなると、各自、机の中から本を出し、読み出しました。

 8時4分、先生が「当番さん、お願いします」と言うと、当番が「立ちましょう」と声をかけます。「朝の挨拶をします」と先生が言うと、「おはようございます」と子どもたちは元気な声で挨拶をしました。
 次に、「健康観察をしましょう」と先生。一人ずつ、「〇〇、元気です」と名前を言った後、健康状態を伝えます。「先生に出すものを出していない人は出してください」と先生が伝えると、3人の子どもが、連絡帳を直接先生に渡しておりました。「後はいいですか?お話しします。姿勢を正してください。お話ししてもいいですか?」と先生が言うと、子どもたちは姿勢を正し、「(全員で)いいですよ」と元気に応えました。
 「あらためて、おはようございます。昨日はお休みしたけど(先生が風邪をひいて欠席)、プールに入ったんだってね」と先生が言うと、「入ったよ」と何人かが言いました。「黒板を消していたら、虹色になってね」、「ミッキーマウスがね〜」と子どもたちは、前日の印象的な出来事をバラバラと先生に伝えます。子どもたちの話を先生は受け止め、その後、「今日の予定を話します」と予定を子どもたちに言いました。

 8時10分、「今週は読書週間なので、静かに本を読みましょう」と先生。先ほどの続きの本を、各自読み出しました。途中で友だちと本を交換したり、学級文庫へ新しい本を取りに行ったり、一つの本を複数でみたりする子もいましたが、他児に迷惑をかけるような振る舞いをする子は存在せず、落ち着いた時間を過ごしていました。

 8時15分、チャイムがなりました。授業の開始です。「本を片付けてください」と先生が言うと、子どもたちは、机の中にしまったり、個人ロッカーに置きに行ったりしました。「1時間目は国語です。支度をしましょう。教科書だけ出してください」と先生が伝えると、子どもたちは教科書を出し、授業に向かう姿勢になりました。

ゴールデンウイークまでの子どもの姿(先生方の記録をもとに)

 4月15日(月)、初めての休み明け、全員、元気に登校。前週に行った活動はしっかり覚えており、着替えについては、子ども自身が「にんぽうはやきがえのじゅつ」を意識している様子が見られ、遅い子なりにも頑張っていたそうです。
 また、背の順、前にならえの確認を「ゆうぐたんけん」の前に行っていたので、18日(木)には、四列横隊にも取り組み始めたようです。先生方は、遊具遊びのような子どもにとって楽しい活動の前にメリハリをつけて指導を行うことで遊び感覚で覚えていくことができたようだと述べられていました。3週目の遊具遊びでは、鬼ごっこや虫探しなどで友だちとかかわりながら遊ぶ子が増えてきたと記録されています。11日の遊具遊び終了後の「保育園では、時間は決められていたけど、いろいろな遊びができた」という子どものつぶやきを大切に見守りながら生活をしてきた様子がわかります。

クラスでのスタートカリキュラムについて

 先生方からは、遊具遊びで1日を楽しく始められるようにしたことが効果的だったのではないかと話されました。子どもたちは、動的な活動から静的な活動に入っていくことが望ましいのではないかということです。一方、他教科(国語、算数)の予定が遅れるといった課題も出てきました。
 また、こちらの学校のような比較的大きな小学校ではできることが限られている、多くの園からの入学者を受け入れるため、園での実際の活動や指導法を理解することが困難であるということが語られました。つまり、比較的大きな学校のスタートカリキュラムの研究を進めていくことが重要だということです。

校長先生へのヒアリングより

 子どもたちの実態が毎年違うので、スタートカリキュラムの効果は図ることは難しいとのことでした。しかし、動から静への流れが子どもたちの発達にあっているのではないかということはみえてきたようでした。
 また、スタートカリキュラムを実施することで、本質的な意味(「4人の担任で、119人を見ていこう」など)での校内体制ができたこと、スタートカリキュラムを通して、先生方が園との連携の重要性を実感したことが大きな成果だとおっしゃっておりました。すでに6月には、1年部の先生方が園との連携をどのようにしたらよいのか模索し始めたそうです。
 最後に校長先生は「それぞれの学校や子どもたちの実態に合わせたスタートカリキュラムを模索し続けることが大切」とおっしゃっておりました。スタートカリキュラムは、教育の基本に立ち戻る契機を内包しているのでしょう。

 来年度より、各学校で、学校や子どもたちの実態に合わせた個性的なスタートカリキュラムの実践がみられることを楽しみにいたしております。

田宮 縁(たみや ゆかり)
幼児教育学、生活科教育学、総合的学習の時間など環境との相互作用の中で、総合的に学ぶことを研究の領域としています。特に、教育実践、教育現場に軸足をおいた研究が中心で、現場の先生方や社会教育施設、地域の人などとかかわりながら研究を進めています。ESD(持続可能な社会づくりの創り手を育む教育)、教師教育、学校種間の接続についてなど現代的な課題が興味の中心。現在、保育プロセスの質の向上のためのリフレクションシートを開発中。