8コロナ禍に学ぶ学校教育 現場レポート コロナ禍の中3の学級担任・数学科の一教師として、こちらに記しておきたい2つのことがある。 一つは、生徒中心の文化的行事「生徒祭」である。筆者が今年度主担当を任されたこの行事は、修学旅行も体育大会も中止となった夏、開催が危ぶまれた。しかし、大学本部と連携して感染症対策を練り、動画の制作と視聴を軸とする新形式で55回目の歩みを進めた。全体テーマ「閃光~ash~」には、①在校生一人一人が輝こう、②暗い世の中に希望の光を差そう、という力強いメッセージを生徒が込めた。 “初めて”が圧倒的に多い試みであったが、3年生を中心に知恵を絞り、取り組んだ。筆者が担任する学級ではなぜかホラー映画を制作することになり、特活の授業などを使って、分担、台本、撮影、編集をリーダー中心に進め、モラルに配慮した作品を見事に完成させた。ホラーも動画制作も初めてで…である(笑)。現在教室の柱には、Googleフォームで全校から寄せられたコメントが誇らしげに飾られてある。 もう一つは、統計の授業である。新しく学習内容に加わる「箱ひげ図」を今年度先進的に指導し、その直後に中3「標本調査」を位置付け、関連を図ろうと考えた。教科書での学習を発展させ、不慣れな統計ソフト、Googleスライド、コメント機能の使用、扱う教材など、こちらも“初めて”づくし。失敗覚悟で臨んだこの無謀な取組だが、生徒たちは試行錯誤を繰り返し、標本調査について見いだした事柄を箱ひげ図などを活用してスライド形式にレポートしていった。さらには、SNS感覚でコメントし合い、一人のスライドに集まった30近い相互評価に目を止めながら、互いのよい点や改善点を理解していった。 そんな彼らの卒業式まであと1ヶ月。チャレンジ精神にあふれた生徒達を心から尊敬し、誇りに思う。中学・高校から 2020年3月下旬、臨時休業中の新学期からの授業についての検討を続け、生徒が各教科の課題を一覧できるウェブサイトの開設イメージがようやくできあがった。授業動画も作成することになり、試しに若手の教員が作ってみることとなった。空っぽの教室で授業を自ら何度も撮影し、解説を加えて初めて1本の動画の編集を終えるまでに数日かかったという。準備を進め4月2週目、先生方は若手もベテランも関係なく皆初任者として遠隔授業を始めた。始めは課題がまばらだった各学年のサイトも、次第にプリントや動画、各種お便りが豊富になり、先生方は見事に賑やかなオンライン学校を創りあげた。 終わりの見えない休業中の生徒の不安は、生活や学習から漠然としたものまで様々な形で学校に伝わってきた。そのためお便りには構内の新緑や新任、教科書を郵送するために作業をする教員の写真を記事とともに掲載し、HRでは雑談やクイズ等たわいない話題を意図して含めた。ある日体育科は全校生徒で踊ろうというイベントを計画した。大教室の中心に集まった先生方を周りから合計6台のPCが取り囲み、学校と自宅にいる中学1年から高校3年までの生徒をライブで繋ぎ、音楽に合わせて一斉にダンスを踊るというものだった。「入学して一度も学校に行けず、本当に自分が学校の一員なのか実感がなかったら嬉しかった」という新入生の感想が印象的だった。生徒にとって、他者と気持ちを通い合わせることは、学習の遅れを取り戻すことと同様、あるいはそれ以上に大切なことかもしれなかった。オンラインで学校を継続する際、生徒がコミュニティへの帰属意識を持ち、安心できているという状態を保つことは、学習を進めるうえで非常に重要なポイントだ。 6月に再開して以来、学校生活はコロナ以前の形に徐々に近づいてきたが、未だに活動を制限せざるを得ない状態にある。この間、宿泊行事や運動会、学園祭等数々の行事を中止してきた。新型コロナウイルスは学校生活の思い出だけでなく、異学年との交流や行事を企画・運営する際の協働スキル、自分の感情と向き合いバランスよく行動するための情動スキル、他者との対立と問題解決から獲得するコミュニケーションスキル等の学習経験を奪ってきたといえる。これからの新しい学校生活は、学習を人としての成長につなげる学びの機会を改めて見直して実施するための工夫が必要となる。新たな方法でピンチをチャンスに変えるお茶の水女子大学附属中学校教諭 藤原 大樹コロナ禍の授業から考えること東京学芸大学附属国際中等教育学校副校長 雨宮 真一
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