GAKUTO 2020 特別号
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4コロナ禍に学ぶ学校教育 Special対談らいいなと思いますし、私たち教科書を作る側からそれが分かるように提案をしていかなければいけないなという気持ちもあります。若月 だから、デジタル教科書については、質が問題になってくると思います。今までの紙の教科書でも、どこでどのような力を付けさせることができるのかということをしっかりと考えてきたのでしょうから、今度はデジタル教科書を使って、ベテランの先生も経験の浅い先生も手軽に使えて、知らず知らずのうちに教科書の基本的なコンセプトをICTで活用しているとなるようにするのが、これからの課題ではないでしょうか。芹澤 そうですね。私たちは、今までは、子どもが理解できるようなソフトを作ることを中心に考えてきましたが、これからは先生が見て授業がすぐにとらえられるようなソフトを作っていくことも必要なのかと考えています。私たちのほうから提案をして、こういう授業のやり方がありますよ、と気づいていただくことも必要ではないかと考えています。若月 そうした情報を先生方に随時提供していくことが大切です。そして、その際には、やはり教科書のコンセプト、願い、そこを伝えることです。教科書すべてのページでなくてよいので、例えば、理科のこの学年の単元、この授業では、ここで対話的な学びを採りいれます、そのときにデジタル教材でこのような資料を用意していますよ、というように。芹澤 実は、ホームページ内で、次からの授業ではこのような提案がありますよ、という情報をお送りし、先生方に活用していただくようなシステムを考えているところです。若月 それはいいですね。奇をてらったICT活用ではなく、教科書発行者は、紙の教科書であろうとデジタル教科書であろうと、教科書を使う価値を広げていく、理解してもらうことが課題でしょう。 正直、新型コロナ感染症対策で仕方なくICT活用だという雰囲気がないわけではないし、コロナ後には元にもどってしまう可能性だってあるわけです。今のこの間に、教科書の価値を、きちんと伝えていく、発信をしていく、先生方も理解し活用していくことが大切でしょう。||学校教育研究所では、『教育時評№51』で「コロナ禍における学校教育の課題」を特集されていますね。若月 これからの時代をつくっていくためにも、ICT教育は必要であるし、そのための環境整備も必要です。でも教育だからないがしろにしてはいけないこともあったはずです。今一度、落ち着いて考え、何らかの気付きのヒントになればという願いをもって、今回の教育時評を編集しました。 特集1は文科省の立場から、特集2では緊急対応として小学校現場で今できることの実践紹介、特集3では、今回の緊急事態で次年度、次々年度への繰り越しがあったように、柔軟な教育課程編成について、特集4では、コロナ禍における教員研修について書いていただきました。どれも大切なテーマですので、ぜひ参考にしてください。 ところで、コロナ禍におけるいちばんの課題は、子どもたちの人間関係づくりへの影響ではないでしょうか。デジタル、ICT活用でも「主体的・対話的で深い学び」をというけれども、どうしてもオンラインでは個別学習になりがちで、大学の授業では少し進んでいるようですが、義務教育段階ではまだまだ双方向性が不足、一方通行になっています。要するに、今一番足りないのは、学習を通してのコミュニケーションの不足、学習を通しての人間関係のつくり方なのではないでしょうか。この「人間関係づくり」が、今コロナ禍の子どもたちに影を落としていて、この時代の子どもたちがやがて社会人となったときに、「コロナ世代」などと言われるようなことがなければいいなと思うくらい、人間形成の点について私はすごく心配をしています。||「現場レポート」のアンケートの中にも、生活のリズムの乱れ、昼夜の逆転、SNS利用によるトラブル、対話の経験不足などが、子どもたちへの影響として挙げられています(→p.6参照)。若月 コロナ禍での子どもたちの生活は、普通ではなかったはずです。ずっと家にいなければいけない、パソコン・スマホ漬けになる。大人でも苦しかったし、大学生でも友人づくりができないと言っている状況ですから、ましてや義務教育段階の子どもたちはなおさらです。コロナ後を考えるヒントに

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